2008-03-01から1ヶ月間の記事一覧

山の向こうにある祖国ー訒麗君(テレサテン)の歌

「私の家は山の向こう」は訒麗君(テレサ・テン)の伝記である。政治・社会評論でしられる有田氏の著作であるが、この本のタイトルは、テレサ・テンが天安門事件における中国共産党政府の自由弾圧に抗議して集まった香港の学生たちの集会で彼女の歌った歌の…

「他總有一天回來」-中国のカチューシャ(秋霧)の歌

他總有一天回來 (あの人はいつか帰って来る)作詞:李雋青/陳坤堯 作曲:姚敏 歌唱:李香蘭知道你不能挨 知道你禁不起 唔...唔... 媽媽手裡沒有錢 只有呆呆的望著你 唔...要望你爸爸早點來 才會有轉機 他是個好心人 他向來講情意 唔...唔... 就是他不知有了…

王寶釧とカチューシャの物語−映画「一夜風流」と京劇「三撃掌」 

「小時候」の歌詞の正確な日本語訳と、その背景にある京劇の伝統について、古くからの李香蘭ファンのかたに教えて頂いた。 「小時候」(幼き頃) 映画「一夜風流」挿入曲作詞:李雋青 作曲:姚敏 編曲:雷頌紱 歌唱:李香蘭 提起了小時候 啊...樣樣到心尖 啊…

「蘭閨寂寂」−深宮怨女の歌

「金瓶梅」は1955年の香港映画。監督は「萬世流芳」で李香蘭と共演した王引である。この時代の李香蘭主演の香港映画は、この「金瓶梅」も「一夜風流」も「神秘美人」もすべて日本では公開されなかったが、東南アジアの中国語文化圏では、かつての爛熟し…

「身世飄零」−つかの間の栄華と没落の予感

香港映画「金瓶梅」の挿入歌。「身世飄零」は貧家に生まれた潘金蓮が、高楼に上り、豪華な宴席に侍りつつ、琵琶を奏でながら、貧しかった昔を偲んで歌う歌である。華やかな背景と対照的であるが、それはやがて来たるべき彼女の没落をも予感させる歌でもある…

李香蘭の歌を聴く−「梅花」

この歌は、1950年代に李香蘭が主演した香港映画「神秘美人」の主題歌。日本は桜花、中国は梅花。それぞれが両国民の奥ゆかしい古き文化を象徴する花だ。 この詩の冒頭にあるとおり、梅は最も気品のある花であるが、作者は梅花を擬人化しつつ、あるいは梅…

「小時候」− "When I was Young" by Li Xianglan

すこし堅い話が続いてしまった。今夜は、李香蘭の一音楽ファンに戻ることにしよう。香港の百代公司で李香蘭がレコードに吹き込んだ中国語の歌はどれも素晴らしい。これはオーストラリアのStanleypower さんがYoutube に投稿されたものです。Li Xianglan のフ…

稲垣浩の回想−戦時中の李香蘭

日本映画の若き日々 (1983年) (中公文庫)に、映画監督の稲垣浩が、戦時中の李香蘭にふれた箇所がある。それによると、稲垣は、日華合作映画「狼煙は上海に揚がる」のヒロインに李香蘭起用を考えて、その内諾を得るために面会したという。以下はその稲垣の文…

汪兆銘とその娘−「我は苦難の道を行く」を読む

汪兆銘にかんする多くの書物の中で僕がこの本に興味を持ったのは、汪兆銘の娘で後にカトリックの修道女となった汪文彬への著者のインタビューが掲載されていたからである。彼女は自分の経歴については秘して話そうとはせず、インタビューに成功するまでには…

ミュージカル「李香蘭」を観て−「啓蒙」の陥穽

ミュージカル「李香蘭」を観劇に行くと、「語り継ぐ日本の歴史」という浅利慶太氏のパンフレットが渡されるが、そのなかにつぎのような一文がある。「いつか日本は、この戦争の「開戦」と「敗戦」の責任を情緒論には流されず、しっかりと裁き、歴史に刻印し…

上海ファンタジー−クラシック・ジャズ・民謡の交響曲

「蘇州夜曲」で開眼した服部良一が「夜来香幻想曲」を作曲したのは38歳の時である。西欧流に言えば人生のアクメ(絶頂期)である。ジャズなどは敵性音楽として禁止されていた戦時中に上海で活動できたことは彼にとっては幸いした。先日、この夜来香幻想曲…

黎錦光と夜来香

「上海ブギウギー1945−服部良一の冒険」という本が「音楽の友社」からでている。 著者の上田賢一氏は1949年生まれということだから、完全な戦後世代であるが、当時のことを良く取材して書いている。主役は服部良一であり、とくに「夜来香幻想曲」の…

三浦環と李香蘭

3月9日の日誌のなかで、昭和16年に来日したときに、李香蘭が三浦環に弟子入りしたことを伝える都新聞の記事を紹介した。 http://d.hatena.ne.jp/Cosmopolitan/20080309/1205057437三浦環の自伝はいまでも購入できるが、この本もまた面白い。 戦後になっ…

夜来香と海燕−戦時中の上海ミュージック

先日の愛宕山で開かれた李香蘭SPレコード鑑賞会でも話題になったが、李香蘭が1944年ころに上海の百代公司から販売されたSPレコードは、当時の日本よりもずっと贅沢な環境で吹き込まれたらしい。「夜来香」と「海燕」の二曲がカップルになっている。幸…

服部良一の「夜来香幻想曲」を聴く

「夜来香幻想曲」といえば幻の名曲という感じがするが、「題名のない音楽会」で放映されたものをWEBの動画サイトで聴くことが出来た。 歌唱はソプラノとアルトの四人の女性歌手、歌詞は日本語である点が上海でのリサイタルとは違っている。終戦直前の上海…

張學友の歌−さようなら李香蘭

Youtubeで検索すると、張學友の唄う「李香蘭」に関するものが26件あった。李香蘭こと山口淑子の歌や映画に関するものは100件以上。投稿者はかなりの割合が中国語圏の人である。WEB上での「李香蘭」のカムバックは際だっている。「色褪せた写真のあ…

「李香蘭」のカムバックー香港と中国

沢口靖子主演のテレビ・ドラマ「李香蘭」には、玉置浩二の主題歌「行かないで」が付けられていたが、このテレビ映画が香港で上映されたときに、主題歌を中国語で文字通り「李香蘭」として、ジャキー・チェンこと張学友が唄い、香港のみならず東南アジアの中…

政治と演劇的なるもの−自己の「顔」

「李香蘭は女優です、藝者じゃありません。宴会で酌などさせないでください」 というのは確か、テレビドラマ「李香蘭」で中村獅童が演ずる甘粕のセリフだった。 テレビドラマと事実は異なるし、このドラマの甘粕はハンサムな二枚目で李香蘭に惚れている男の…

瘋狂世界−ひたすら歌い続けること

「李香蘭 私の半生」のなかに上海での夜来香コンサートの最終日に、李香蘭がアンコールに応えて、最後に「瘋狂世界」を唄ったとあったのが妙に記憶に残っている。彼女はこの「瘋狂世界」という歌をレコードに吹き込んではいない。これは当時の中国で最も人気…

スパイ説による風評被害−過酷なる時代の流れを越えて

「私の鶯」は、戦時中の厳しい条件の下で、少数の映画人が優れた映画を後世に残したいという強い意志のもとに制作された映画であったことは間違いないし、日本で最初の本格的なミュージカル映画としても記念すべき作品である。しかし、この映画に登場する白…

「ペルシャの鳥」ー永遠なる生命の飛翔

映画「私の鶯」のなかで李香蘭演じる真理子(マリア)が最初に歌う歌曲である。ピアノを弾いているのは、真理子の実父の隅田(黒井洵こと二本柳寛)に命を救われたロシアの宮廷オペラ歌手のディミートリーで、これは当時、世界的にも著名であったバリトン歌…

「新しき夜」ーハルピンの歌姫 2

「日本の戦時歌謡」とか、「懐かしのメロディー」というジャンルの中に収まらないものを山口淑子(李香蘭)は持っている。彼女は中国語と日本語の歌だけではなく、朝鮮語とロシア語、そして英語でも歌ったのであるから。文字通り五族協和のコスモポリタンの…

「漁光曲」とシューベルト

一昨日の放送博物館のSP鑑賞会では、山口淑子の最初のレコードとしてテイチクからだした古賀メロディー「さらば上海」が紹介されていたが、彼女が、李香蘭の名前で歌手デビューしたのは、それよりもずっと早いことは「私の半生」の読者ならば知っているだ…

「私の鶯」−ハルビンの歌姫

「私の鶯」という歌曲をCDで聴いたとき、てっきりロシアの曲を翻訳したものと思っていたが、日本語の歌詞(サトウハチロー)と曲(服部良一)が先であって、同名の映画ではそのロシア語訳が歌われたということを知って唖然とした経験がある。よけいな背景…

「迎春花」とショパン

昨日、愛宕山のNHK放送博物館の特別企画で山口淑子(李香蘭)の昔のSPレコードを聴いた。音楽史家の郡氏が解説を担当されたが、1942年の松竹・満映合作映画「迎春花」の主題歌のメロディーが、ショパンのピアノ曲、幻想即興曲の一節をアレンジした…

映画「萬世流芳」より「戒煙歌」

映画「萬世流芳」は、アヘン戦争に題材とすることによって中国人の愛国心を宣揚するという映画である。日本軍部の宣撫担当者に対しては「大東亜共栄圏」のために中国と日本が手を結んで欧米に立ち向かう映画としてお墨付きを獲得する。しかし、歴史に名を借…

三年 李香蘭主演の香港映画 「一夜風流」の主題歌 

1950年代の李香蘭主演の香港映画「一夜風流」はトルストイの「復活」を翻案したものである。中国版のカチューシャの物語である。この映画は残念ながら未見であるが、主題歌および挿入歌はその後、香港や東南アジアで長く愛唱され、現在でもCDなどで聞…

歌舞今宵

「歌舞今宵」という李香蘭の歌が、カラオケに編集されてYouTubeにでていた。 李香蘭主演の香港映画「神秘美人」の挿入歌である。戦後に録音されたものだけあって音質がSP時代のものとは全く異なる! しかも、これは円熟期の彼女の声ではないだろうか。気品が…

上海の女

沢口靖子の「さようなら李香蘭」、上戸彩の「李香蘭」を見た後で、この映画を見る機会があった。白黒映画のハンディキャップにもかかわらず、終戦直前の上海の独特の雰囲気が良くでている。登場人物が、場面に応じて日本語、中国語、英語で話すのも自然に聞…

色・戒 について

終戦直前の上海で李香蘭と交遊のあった小説家張愛玲の短編「色戒」が 昨年映画化されて、ベネチアで金獅子賞を取ったが、それが今公開中。 この映画、抗日派の女性が、親日派の高官を暗殺するために近づきながら、男への恋情故に、土壇場になって仲間を裏切…