服部良一の「夜来香幻想曲」を聴く

「夜来香幻想曲」といえば幻の名曲という感じがするが、「題名のない音楽会」で放映されたものをWEBの動画サイトで聴くことが出来た。
歌唱はソプラノとアルトの四人の女性歌手、歌詞は日本語である点が上海でのリサイタルとは違っている。終戦直前の上海のグランドシアターでのリサイタルは李香蘭の独演会であった。しかし、オーケストレーションや全体の構成、ガーシュインのようなジャズと交響曲の融合、ブギウギのリズムの導入などは、かつての上海リサイタルもかくやと思わせるに十分であった。 
「蘇州夜曲」「私の鶯」とならんで、終戦前の服部良一のミュージカルの傑作の一つであるが、敗戦によって楽譜を没収されたために、帰国してからもう一度記憶を頼りに書き直したものが上演されたという。
 上海のグランドシアターは、2000の指定席をもつ大劇場であるが、昼夜二回、三日間の講演は、連日満員の盛況で、観客の90パーセントは中国人と上海に住む外国人であった。服部良一が、このコンサートについて回想して書いたものを読んだことがあるが、公演終了後、観客がどっとステージに詰めかけ、あらためて李香蘭の中国での人気に驚き、「音楽に国境はない」ことを実感したと言っていた。
 このグランド・シアターでの独演会は三部形式で、第一部が「東西歌曲集」で欧米および日本の歌曲ないし民謡、第二部が中国歌曲、そして第三部が「夜来香幻想曲」であった。伴奏は、西洋人が主体の上海交響楽団と胡弓や琵琶などを含む中国音楽楽団で、舞台演出などは日本人が担当した、文字通り、国境を越えた演奏会であった。
 今後も、日本だけでなく、中国語圏でも、いやもっと広く、様々な国の様々な言葉で、この「夜来香幻想曲」を再演して貰いたいものである。