2008-01-01から1年間の記事一覧

The China Lover を読んで

The China Lover作者: Ian Buruma出版社/メーカー: Atlantic Books発売日: 2008/11/01メディア: ハードカバー クリック: 5回この商品を含むブログ (1件) を見るIan Buruma の China Lover は、李香蘭こと山口淑子のモデル小説である。これまで出版されたり、…

レッドクリフを観て

「レッド・クリフ」といっても一瞬何の事やらという感じもするが、これは「赤壁」の英訳。日本で公開するならカタカナにしなくとも良さそうなものだが、今の若い人には「赤壁の戦い」というよりも「レッド・クリフ」といった方が新鮮なのだろうか。 それはと…

故都素描−江文也の組曲

江文也の組曲「故都素描」を聴くと、なぜか宮沢賢治の「風景スケッチ」とか藤村の「千曲川旅情の歌」を思い出す。どこまでも特定の郷土と歴史に根ざしながら、不思議なコスモポリタニズムを実感するのである。時代の巡り合わせで、彼は日中両国の板挟みにな…

江文也の「北京銘」を読む

江文也の書いた「北京銘」その他の随筆を読む。彼の中国と北京に寄せる思いがひしひしと伝わる。あたかも、昔時、ゲーテやギボンがイタリアを旅して古代ローマの遺跡を目の当たりにした感激と似たものを感じる。ヨーロッパ人にとってローマは永遠の都である…

孔廟大成楽章のCD

理想主義的な政治家が、その理想にあまりにも厳格たらんとして藝術を排斥したことは歴史が証明している。プラトンは彼の理想とすべき国家から詩人を追放しようとしたし、「兼愛」の徳を説き社会的な不平等を批判した墨子は「非楽論」で、儒教の典礼音楽を否…

江文也と新民会ー音楽家にとって「国家」とは何か

李香蘭と長谷川一夫が共演した大陸三部作の最後は「熱砂の誓ひ」であるが、そこでは李香蘭は日本に音楽の勉強に来ている北京の要人の令嬢役で登場する。北京出身の親日派中国人で声楽家という設定は、演じた当時の李香蘭を彷彿させるものであった。北京時代…

江文也の「上代支那正樂考」

平凡社の東洋文庫に、江文也の「上代支那正樂考−孔子の音楽論」が復刻された(2008年5月16日刊行)。三省堂から刊行された初版(1942年)のほうはすでに古書で読んだことがあるが、復刻版には、彼の詩文「北京銘」が付録として収録されているのが…

白蘭の歌 再考 −植民地開拓の明暗−

李香蘭が長谷川一夫と共演した最初の映画「白蘭の歌」、先日、たまたま、京橋のフィルムセンターの長谷川一夫特集で上映していたので、久しぶりに見ることが出来た。ビデオ版は見たことがあるのだが、これは省略がひどくて、筋の展開がよくわからないという…

花白蘭の歌−戦時中の恋の歌

戦時中李香蘭の出演していた日本映画は、基本的には国策映画であったが、彼女が当時レコードに吹き込んで歌曲には恋の歌が多数含まれている。そのなかでも特筆すべきものは、楠木繁夫とデュエットで歌った「花白蘭の歌」であろう。これは、イタリヤのカンツ…

忘憂草−上海の歌曲より

1940年代、上海で李香蘭のために中国の当時のニューミュージックの旗手達が詞と歌曲を作った。 そのうちの一つ「忘憂草」もなかなかの名曲である。忘憂草 曲﹕林枚 (陳歌辛) 詞﹕衡山 (陳歌辛) 愛人呀 天上疏星零落 愛する人よ 天上の疎らな星は寒々と落…

十里洋場−上海の李香蘭

戦前の上海という都市は不可思議な魅力を湛えていた。その万華鏡の如き多面性は、多くの人々を惹き付けまた反撥させた。 「犬と中国人は入るべからず」と言う如き、伝統的な中華文明から見れば屈辱的なる「租界」であったにもかかわらず、多くの中国人にとっ…

「恨不相逢未嫁時」

今に至るまで中国の人々に歌い継がれている李香蘭の歌曲のひとつが、「恨不相逢未嫁時」である。作曲者は服部良一の友人でもあった姚敏。この曲、漢文流に読めば、「未だ嫁せざるときに相逢はざるを恨む」とでもなろうか。親によって結婚相手が決められてい…

李香蘭の中国語の歌曲を聴く

Youtube にアップされている李香蘭の歌(中国語)は李香蘭(中国語)歌曲集でまとめて聴ける。曲目は 三年 歌舞今宵 烏鴉配鳳凰 身世飄零 小時候 梅花 分離 他總有一天回來 十里洋場 心曲。日本で販売されているコロンビアの「李香蘭全歌曲」というCDには…

「蘇州の夜」−占領地域での医療奉仕活動

今朝のABC放送で、アフガニスタンに駐留している米軍が、治安の取り締まりをするだけでなく、医療活動を通じて現地の人に感謝されているという報道が為されていた。これを聴いて僕が思いだしたのが、李香蘭が佐野周二と共演した「蘇州の夜」という映画で…

中国政府による拉致事件ーパンチェン・ラマの誘拐

http://www.tibethouse.jp/panchen_lama/gc_nyima.htmlにあるように、中国政府は、チベットで阿弥陀仏の化身として信仰の對象となっているパンチェン・ラマ11世こと、ゲンドゥン・チューキ・ニマ少年を拉致・誘拐したうえで、親中派の家に生まれたチベット…

ダライ・ラマの弁明−平和の教えとしての仏教

チベット仏教のなかには、深い哲学的な自覺が含まれている。それは異なる宗教を持つ人にも開かれた教えであるし、地球的な視点からチベットの文化ととも人類が継承すべき貴重な思想的遺産である。中国政府は共産主義という19世紀に成立したイデオロギーに…

デューク大学の争乱−国旗を掲げて

長野に於ける聖火リレーでひときわ目立っていたのが、大きな中国の国旗を掲げて、沿道を埋め尽くした中国からの留学生であった。オリンピックであるからには、自国の旗だけでなく万国旗を掲げるべきだろうし、メーデーの赤旗のようなあんな大きな国旗を誇示…

「私の中国、私のチベット」−その境界に立つ勇気

「李香蘭とその時代」というこのブログの目的の一つは、国家のエゴイズムを越えて、一人一人の人間の自由を勝ち取るためにはどうすればよいかを考えることである。決して過去を向いているわけではなく、過去をふまえた上で現在と将来のことを常に念頭に置い…

「サヨンの歌」と「サヨンの鐘」

サヨンの歌作詞:西条八十 作曲:古賀政男 歌唱:李香蘭 花を摘み摘み 山から山を 歌いくらして 夜霧に濡れる わたしゃ気まぐれな 蕃社の娘 親は雲やら 霧じゃやら ハイホー ハイホー 谷の流れが 化粧の鏡 森の小枝が 緑の櫛よ わたしゃ朗らか蕃社の娘 花の…

夜来香 −「東京の休日」から

夜來香作詞:黎錦光 作曲:黎錦光 歌唱 山口淑子(李香蘭)那南風吹來清涼 那夜鶯啼聲輕唱 月下的花兒都入夢 只有那夜來香 吐露著芬芳 我愛這夜色茫茫 也愛著夜鶯歌唱 更愛那花一般的夢 擁抱著夜來香 吻著夜來香 夜來香 我為你歌唱 夜來香 我為你思量 啊... …

香蘭の歌

戦後の香港で映画出演した頃の李香蘭の歌 李香蘭(中国語)歌曲集 を、Youtube で連続して視聴した。曲目は 三年 歌舞今宵 烏鴉配鳳凰 身世飄零 小時候 梅花 分離 他總有一天回來 十里洋場 心曲 切々たる情念をうたいあげた「三年」、妖艶ななかに天上へと舞…

空の歌−チベットのために祈る

サンスクリット語の般若心経が音楽化されてアップされていた。我々が親しんでいるお経とはちがって実に新鮮な印象を受けた。私はただちに、小笠原秀実の書いた詩を思い出した。 空の心 形あるものは すべてこわれていく 花のように 人のように 楼閣のように …

The lady of mystery--「分離」を越えて 

重信房子のインタビューを見た後で、次第に気分が重くなった。連合赤軍の凄惨なリンチ殺人や、その女性戦士たちの「その後」を知っているからだろうか。 日本に潜伏中に逮捕され東京の小菅拘置所に収監された重信房子に山口淑子が面会したのは2004年10…

重信房子のインタビュ--イデオロギーを越えた個人の生き様

重信房子独占インタビューの時の映像の一部がYoutube にアップされている。 1973年だからもう35年も前。当時は連合赤軍のハイジャック事件、浅間山荘事件が紙面を賑わしていた頃だ。この二つの事件はよく覚えているが、僕はこのころは昼間テレビを見る…

「誰も書かなかったアラブ」−砂漠に沈む夕陽に向かって

誰も書かなかったアラブ―“ゲリラの民”の詩と真実 (1974年) (サンケイドラマブックス)はもはや「李香蘭」の書いた書物ではない。これを書いているのはジャーナリストとして新たな生を開始した「山口淑子」である。このあと、参議院議員や環境庁政務次官や外務…

私の家は山の向こうにあるー歌詞と日本語訳

我的家在山的那一邊 作曲:周藍萍 詩:王琛 歌唱:訒麗君(テレサ・テン)我的家在山的那一邊 私の家は山の向こうにある 那兒有茂密的森林 そこには豊に茂った森があり 那兒有無邊的草原 そこには果てしなき草原がある 春天播種稲麥的種子 春には稲や麦の種子…

山の向こうにある祖国ー訒麗君(テレサテン)の歌

「私の家は山の向こう」は訒麗君(テレサ・テン)の伝記である。政治・社会評論でしられる有田氏の著作であるが、この本のタイトルは、テレサ・テンが天安門事件における中国共産党政府の自由弾圧に抗議して集まった香港の学生たちの集会で彼女の歌った歌の…

「他總有一天回來」-中国のカチューシャ(秋霧)の歌

他總有一天回來 (あの人はいつか帰って来る)作詞:李雋青/陳坤堯 作曲:姚敏 歌唱:李香蘭知道你不能挨 知道你禁不起 唔...唔... 媽媽手裡沒有錢 只有呆呆的望著你 唔...要望你爸爸早點來 才會有轉機 他是個好心人 他向來講情意 唔...唔... 就是他不知有了…

王寶釧とカチューシャの物語−映画「一夜風流」と京劇「三撃掌」 

「小時候」の歌詞の正確な日本語訳と、その背景にある京劇の伝統について、古くからの李香蘭ファンのかたに教えて頂いた。 「小時候」(幼き頃) 映画「一夜風流」挿入曲作詞:李雋青 作曲:姚敏 編曲:雷頌紱 歌唱:李香蘭 提起了小時候 啊...樣樣到心尖 啊…

「蘭閨寂寂」−深宮怨女の歌

「金瓶梅」は1955年の香港映画。監督は「萬世流芳」で李香蘭と共演した王引である。この時代の李香蘭主演の香港映画は、この「金瓶梅」も「一夜風流」も「神秘美人」もすべて日本では公開されなかったが、東南アジアの中国語文化圏では、かつての爛熟し…