「ペルシャの鳥」ー永遠なる生命の飛翔

映画「私の鶯」のなかで李香蘭演じる真理子(マリア)が最初に歌う歌曲である。ピアノを弾いているのは、真理子の実父の隅田(黒井洵こと二本柳寛)に命を救われたロシアの宮廷オペラ歌手のディミートリーで、これは当時、世界的にも著名であったバリトン歌手のグレゴリー・サヤーピンが演じている。聴いている女性(ミルスカヤ夫人)を演じているのは、ハルビン歌劇団の座長でもあったニーナ・エンゲルガルド。ハルビンバレー団とハルビン交響楽団も参加しているから、李香蘭は当時の日本人の歌手が望みうる最高の環境でミュージカルに出演したということが分かる。

ペルシャの鳥」の作曲者Brozorouskiがどういう人であるのか僕には分からない。歌詞の内容からすると、ここで歌われているのは、ペルシャという「異国」に住む「老いをしらぬ黄金の鳥」のようである。黄金は永遠なるもの、飛ぶ鳥の姿は移ろいゆくものの象徴であろう。軽やかなコロラツーラ・ソプラノで李香蘭が歌うパッセージは、地上的なるものをはなれて空に飛翔する永遠の生命を象徴しているかのようだ。

ロシア語で歌われたこの歌は、山口淑子のアルバムには入っていない。しかし、僕には、ある意味で、軽やかに空に飛翔しつつ歌う「ペルシャの鳥」は「私の鶯」とならんで、与えられた過酷な環境の中にあっても向上心を失わずに常に最善を尽くしてきた彼女の生き方を象徴する曲のように思われてならない。
そして「ペルシャの鳥」のごとく老いを知らぬ彼女は今も健在である。

ペルシャの鳥
Перская птица Composed by Brozorouski.

蜜より黄色い花が飛ぶ
ゆるやかに飛ぶ 草から草へ
羽根輝かせて 大空を
羽ばたきの音
嗚呼ー
黄金の小鳥よ
御身歌はずば われ歌ふ
燃えて飛び 飛んで咲け
我、御身をこよなく愛でる
嗚呼ー