レッドクリフを観て
「レッド・クリフ」といっても一瞬何の事やらという感じもするが、これは「赤壁」の英訳。日本で公開するならカタカナにしなくとも良さそうなものだが、今の若い人には「赤壁の戦い」というよりも「レッド・クリフ」といった方が新鮮なのだろうか。
それはともかく、この映画、北京五輪の開会式と同じで、膨大な費用を投じたスペクタクルであることには感心した。かつて「ベン・ハー」というハリウッド映画があった。20世紀がアメリカの世紀であり、その文明を象徴する映画がハリウッドの超大作の歴史物であったとすれば、21世紀は中国の世紀でもある。中華文明の歴史を背景として、超大国に相応しいスペクタクル大作を世界に発信するようになったということだろう。
日本でも大ヒットしているが、映画音楽や主演男優に日本人が加わっていることも一因だろうと思う。音楽はそこそこ。日本人の俳優もそれなりに頑張ってはいる。おなじく中国製のテレビ映画だった「大漢風」で、項羽を演じていた男優が、映画開始早々、派手なアクションを駆使していた。彼ほどではないが、テレビドラマ「李香蘭」で甘粕を演じた中村獅童も、今度は中国語を喋りながら、よき武将役を演じていた。金城武は、眼が優しすぎて知謀の軍師、孔明には似合わないとも思ったが、中国語が殆どネイティブのような見事な発音であるのに驚いた。日本語と中国語を同じくらい自由に駆使できて、しかも英語も出来る国際的スターといえば、嘗ては李香蘭だったが、金城君は、同じような役割を、21世紀の東アジアの映画界で果たしていくのかも知れない。
もっとも莫大な資金を投じた映画とはいえ、それが長く心に残る感動を与えるかどうかは全く別物である。大変な映画ではあるが、そのわりには、なんだか一ヶ月もすれば忘れてしまうかも知れないという感じもする。オリンピックの開会式には驚かされたが、それは心にしみ通るような感動というものではなく、今の僕には、つかの間の栄華の夢のような希薄な記憶しかのこっていない。「レッドクリフ」もいずれはそのようになるかもしれない。