デューク大学の争乱−国旗を掲げて

長野に於ける聖火リレーでひときわ目立っていたのが、大きな中国の国旗を掲げて、沿道を埋め尽くした中国からの留学生であった。オリンピックであるからには、自国の旗だけでなく万国旗を掲げるべきだろうし、メーデー赤旗のようなあんな大きな国旗を誇示しなくても良さそうなものだ。聴けば、あれは中国本土から大量に世界各国に送られたものだという。

ここでは紹介は出来ないが、かつて李香蘭川島芳子を弾劾するときに使われた「漢奸」という中国語が、王千源さんを誹謗するネット文書に使われていた。この言葉は未だ死語にはなっていないようだ。「愛国」という美名に隠れた集団主義のもとでは、敵よりも裏切り者の方へ憎しみが向けられる。王さんの主張はしごく良識的なものであったにもかかわらず、彼女がチベット国旗を後にして喋っていたという状況そのものに、愛国者たちは腹を立てたらしい。
騒動は、人と人との対話ではなく、国旗と国旗との闘いとして受け止められたのだ。そして心に国旗を掲揚していない人間の戸惑いや悩みというものが、数の暴力によって押し切られようとしていた。