The lady of mystery--「分離」を越えて 

 重信房子のインタビューを見た後で、次第に気分が重くなった。連合赤軍の凄惨なリンチ殺人や、その女性戦士たちの「その後」を知っているからだろうか。
 日本に潜伏中に逮捕され東京の小菅拘置所に収監された重信房子山口淑子が面会したのは2004年10月である。それは、「李香蘭を生きて」の出版少し前であった。そのために、この自伝の前書きにそのときの複雑な思いが綴られている。そして、山口淑子は、この自伝の巻末に、川島芳子の裁判記録を日本語に訳して掲載しているが、それはこの二人が運命に翻弄された女性として山口淑子に陰影を落としているからであろう。
 この自伝には、彼女のパレスチナ取材の後日談として、自分が里親となった難民の少年が成人してメッセージをよこした話も納められている。こちらが将来に希望を感じさせるとすれば、重信にかかわる話にはいかにも救いがない。なぜ彼女はあのような生涯を送らねばならなかったのか。
 山口淑子李香蘭の名前で出演した香港映画「神秘美人」のことを思った。この映画の詳細についてはよく分からないのだが、どうやら彼女は美貌の女スパイの役を演じていたらしい。対立する二つの力の境界線上で生きた女性という役柄は、李香蘭としての生を彷彿させるものだ。ここでいう「神秘」とは「ミステリー」であり、「不可解」という意味であろう。英語のタイトルは The lady of mystery である。川島芳子重信房子も、その意味で「不可解な女性」であった。「美人」であったのかどうかは判断が分かれるかもしれないが。そういった不可解さは生来のものではなく、彼女らが引き受けてしまった運命の故にそう見えるだけなのかもしれない。
 その「神秘美人」の挿入歌、「分離」を聴こう。この歌曲には例によってイメージビデオが付けられているがそれに登場する青年にも娘にも暗さは全く感じられない。むしろ再会を約して「永遠に一つとなる」未来への希望が、李香蘭の清澄なリリック・ソプラノで唄われている。分離を嘆く絶望の歌ではなく、分離を越えた希望の歌。運命から逃れがたい人間にもつかの間の救いはある。それが李香蘭の歌なのだ。


    分離
作詞:李雋青 作曲:梁樂音 歌唱:李香蘭

不到分離偏要分離分離是真不得已
還沒分離又在一起分離也不容易
你也有情我也早有意為什麼我要離開你.....
我們倆談情說愛還沒有到時期

不到分離偏要分離分離是真不得已
還沒分離又在一起分離也不容易
心是你的人總是你的我和你遲早在一起.....
我們倆總有一天永遠的不分離