「恨不相逢未嫁時」

今に至るまで中国の人々に歌い継がれている李香蘭の歌曲のひとつが、「恨不相逢未嫁時」である。作曲者は服部良一の友人でもあった姚敏。この曲、漢文流に読めば、「未だ嫁せざるときに相逢はざるを恨む」とでもなろうか。親によって結婚相手が決められていた時代、気の進まぬ相手の家に嫁ぐ前に、つかのまに逢った青年に胸をときめかせ、「あなたにもっと前に逢うことができたなら」という意味の歌であろうか。なんとなく映画「蘇州の夜」のヒロインを思い出したが、その映画と同じ頃吹き込まれたものが、「夜来香」CDの巻頭に収録されていた。若いときの李香蘭の初々しい声が聴けた。同じ曲を戦後にリメイクしたものが「經典電影名曲」にあったが、こちらは、ずっと円熟した艶やかな歌いぶりであり、伴奏のオーケストラの音質が格段に良くなっている。


    恨不相逢未嫁時 曲:姚敏 詞:陳昌壽

冬夜裡吹來一陣春風      冬の夜に一陣の春風が吹いて来て
心底死水起了波動      心の底に淀んだ水(死水)に波動を起してくれました
雖然那溫暖片刻無蹤      でも暖かいときはつかの間で、(波の)跡は無くなりました
誰能忘卻了失去的夢     失った夢を誰が忘れることが出来ましょうか  

你為我留下一篇春的詩     あなたは私のために一編の春の詩を残してくれましたね
卻叫我年年寂寞過春時    (でもそのために)却って私は毎年寂しく春の時を過ごしています
直到我做新娘的日子      もうじき私が新婦となる日がやってきます
才開始不提你的名字     あなたのお名前を口にできないときが始まります

可是命運偏好作弄        けれども運命がいたずらをしてくれるかもしれませんね
又使我們無意間相逢      知らぬうちに私たちがお互い会うことがあるかもしれません
我們只淡淡的招呼一聲      私たちは、ただ素知らぬ顔をしてただちょっと声だけをかけるでしょう
多少的甜蜜 辛酸 失望 苦痛   ちょっとの甘さ、つらさ、失望 痛み
盡在不言中          ことごとく言葉に出して言わないところにあるでしょうね

李香蘭の歌唱は、WEB だと

で聴けます。

Youtubeでは、テレサテンの歌唱も聴ける。クラシック出身の李香蘭とは歌唱の仕方が違うが、こちらもなかなか味わいがある。