The China Lover を読んで
- 作者: Ian Buruma
- 出版社/メーカー: Atlantic Books
- 発売日: 2008/11/01
- メディア: ハードカバー
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ただし、その話の内容は、「私の半生」などの資料に出ていることを大して越えてはいない。史実そのものが、小説家の想像力を越えたところがあるので、小説というよりセミ・ドキュメンタリーという感じがするし、どこに作者の創意があるのか、もうひとつ見えにくいところがあった。
ひとつだけ興味をそそられたのは、「支那の夜」に日本版と中国版があったと書いている箇所だった。日本版では、もともと悲劇の設定で、主人公の長谷は、匪賊に襲われて落命し、桂蘭は、長谷から教えられた日本の詩を唱えて、身を投げて水死する設定であったものを、中国での上映を考慮して、日本人のヒーローと親日派に転向した中国娘が、橋の上で結ばれるというハッピーエンドに作り替えたというエピソード。 Buruma 氏がどこからこの情報を得たのか知らないし、私の知る限りでは、悲劇に終わる「日本版」なるものがあったとしても、それは日本でも上映されなかったはずである。当時の日本の映画評でも、結末が安易なハッピーエンドで失望したというものがあった。悲劇に終わらせたほうが、映画作品としてはずっと深みが出たであろうという趣旨の批評であった。
「支那の夜」は、戦後に題名を変更してビデオ版が販売されたが、内容はかなりカットされている。元来、前編と後編という形で上映されたわけであるから、その当時の形態でアーカイブとして残して欲しいものである。