「米国版鉄腕アトム」の原発論議ービル・ゲイツ氏に苦言を呈す

私は1984年頃からWindows PC を使っているが、OSが進化するたびに、新しいソフトを買わせるマイクロソフトのやり口に辟易している。ワープロで言えば、WORD98というのを長く使用していたが、現在のOffice 2010 などよりも遙かに軽くて使い勝手が良かったと思う。つまり、OSが進化するたびにより高いスペックのPCを買わせ、さらにソフトをバージョンアップさせて収益増を図るという独占企業のやり口が次第に分かってきたのである。Windows というOSは、ひょっとしたら中身のコードはぐちゃぐちゃで、原発プラントの如く肥大化したために、あちこちにセキュリティ・ホールがある欠陥商品ではないかと思うことがある。何よりも困ったのは、プログラムにバグがあっても平気でそれを売り出す無神経さである。あとから勝手に、PCにアクセスしてきて更新ソフトをインストールすることを告げてくるのも迷惑至極である。それでもWindows PC を使い続けているユーザーは、独占企業の術中にはまって、ソフトを使わさせられているのであり、なんとなく、東電という独占企業によって原子力をいつの間にか使わさせられている我々の状況と似ていると思ってしまった。
そんなマイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は、なんと原発推進論者であった。ゲイツ氏によると、原子力の良いところは革新の欠如なのだそうである。ゲイツ氏は、どうやら40年前の原子炉を未だに使っている原子力業界にあきれ果てて、福島事故を契機にして安全な原子炉を開発するビジネスに魅力を感じているようである。ゲイツ氏によると、原子力は石炭の百万倍も効率の良いエネルギー源であり、二酸化炭素を排出しない利点があるとのこと。したがって科学技術を進歩させて、安全性の問題をクリアーして、原子力に関する否定的なイメージを変えるべきだというのである。そして、極めつけは、放射性廃棄物の量を1000倍も減らすような原子力プラントを開発することまで彼は提案している。
ダビンチの崇拝者であるゲイツ氏の頭の中は、どうやら1960年代の「鉄腕アトム」と「ウランちゃん」の時代の日本の科学者と同じように夢と希望に満ちているようである。科学技術の進歩によってあらゆる問題が解決するという技術信仰が彼のライフ・スタイルなのであろう。この挫折を知らぬ米国版鉄腕アトムの夢は限りがない。しかし、私は敢えてゲイツ氏に苦言を呈したい。チェルノブイリやフクシマの致命的な事故が起きる以前にロシアや日本の原発推進派からさんざん聴かせられた夢物語はもうこりごりである。子供じみた夢想を語る頭を切換えて貰わねば、アトム君を制御すべきコンピューターがバグで暴走して、とんでもない社会的な危害を及ぼしかねない、と。