東北電力と東電の津波対策

昨日東電の会長が記者会見して、福島の住民に謝罪した。福島第一原発の老朽化したプラントを更に10年使用し続けることを昨年認可した原子力安全・保安院および経産省のトップの責任の方が、一民間企業よりも遙かに大きいのではないか。海江田万里は、事故責任=自己責任を自覚しているのだろうか。

たしかに東北電力と比べると東電は福島第一原発津波対策を十分にしていなかった。それは女川原発が、同じく激しい地震津波に襲われながらも安全停止したことに現れている。なぜ女川原発は無事だったか。 津波の高さは福島と同程度であったという記事を見る限り女川原発のほうは津波と電源対策が福島第一原発よりも優れていたということだろう。紙一重の差で大事故を免れたというのが実情かも知れないが、宮城県沖地震など幾度も津波に見舞われた三陸海岸にある女川原発で、東北電力津波を最高9・1メートルと想定。これが東電の福島原発との明暗を分ける結果になった。ところで、東北電力松本康男氏の作成された女川原子力発電所における津波に対する安全評価と防災対策という興味深い論文がある。これは独立行政法人 原子力安全基盤機構のシンポジウムでの発表であるが、そこでは東北電力が、1896年の明治三陸津波や、貞観自身のデータを調べて津波対策を立てていたことが示されている。

日本海溝で発生した津波の例
貞観津波869, M8.6 慶長津波1611, M8.1 明治三陸津波1896, M8.5 昭和三陸津波1933, M8.1
海外のプレート境界地震 チリ津波1960, M8.5

そして、これらの過去のデータを分析して、津波に対する女川原子力発電所の安全性評価を実施し、文献調査やほかの調査から,1611年の慶長津波が支配的な津波であることが確認している。このような配慮を怠らなかったが故に、東北電力は東電のような悲惨な事故に見舞われなかったことは評価されねばなるまい。しかしながら、ここにさらにひとつ問題が残っている。このような東北電力女川原発津波対策を、東電は、福島第一原発の稼働延長を決めたときに考慮していなかった。東電は上のような津波対策を知らされていなかったのだろうか。
津波対策の不備は、電源機能が完全に喪失したときのシュミレーション(これは一号機を製作したアメリカでは一九八〇年代にすでに行っており、その結果は今回の福島原発の事故を予見させるに十分であった)を無視したことと並んで、東電の重大な失態と言わねばなるまい。縦割り組織故に、他の電力会社の津波に関する研究、米国のシュミレーション、国会での吉井英勝衆議院議員の警告など、傾聴すべき提言にまで目配りが出来なかったのだろうか。
そして、東電だけでなく、そのように貧弱な津波対策、停電対策しかもたなかった老朽化原子炉を、原子力安全・保安院が、昨年、更に一〇年間稼働することを認可したことの責任もまた大きいのである。