吉井英勝氏から日本のあるべきエネルギー・環境政策を聴け

化石燃料依存から脱却する将来の「クリーン・エネルギー」として、原子力発電の必要性をキャンペーンしてきた政府の責任は重い。我が国のエネルギー政策の大転換を促す大事故に直面しているのも関わらず、政・官・財界の指導者達は頭が切り替わっていないのではないか。テレビでおなじみの原子力安全・保安院の審議官がWSJに対して明確に原子力発電推進政策に変更はないことを宣言していた。この人は文系出身の官僚で、記者会見から見る限り、曖昧で頼りない応答を繰り返しており、原子力にかんする専門知識があるようにはとても見えないのであるが、いつもとちがって、ここでは明確な発言をしていた。多分経産省の官僚としての本音をつい漏らしてしまったのだろう。ついでにいえば原子力安全・保安院の英語名はNuclear and Industrial Safety Agency(NISA)である。つまり、「住民の安全・保安」ではなく「原子力産業の保安」のために置かれた経産省の機関なのであった。我々は日本語の名称に騙されていたのである。彼の所属する組織は、正しく言えば「原子力産業保安院」なのだから。今回、最初に建屋が水素爆発を起こした福島第一原発1号機は、40年という長期に亘り使用しけてきた老朽プラントであるにもかかわらず、今年2月には保安院が今後10年間の運転継続を認可したばかりであった。吉井氏がすでに国会で明らかにしたことであるが、老朽化した原子力プラントが安全であることを証明する実験設備そのものが現在日本には存在していないのである。それどころか、かつて多度津にあった大型耐震実験施設さえも、2005年に時の小泉首相のもとで、行政改革の名のもとにスクラップ化されてしまったのである。つまり政府は原子炉の安全よりも経済効率を優先してきたのである。
自民党政権のみならず、民主党政権も又、原子力発電関連企業のキャンペーンに載せられて、原子力発電プラントをベトナムに売込んだことを得々として語るセールスマンと化したのであったが、ベトナムには地震津波も予想されるのだから、欠陥商品の疑いを払拭できないプラントを外国に売りつけた反省があるようにも思えない。
少し前まで、東京電力は3つのE(Energy,Economy,Ecology)において原子力がいずれも優れていることを盛んにキャンペーンしていた。
資源に乏しい日本に持続的なエネルギー源を提供する、経済性に優れ、エコロジカルな(二酸化炭素など温室効果をもたらす排気ガスをださない)クリーン・エネルギー、というのが原子力発電を促進するキャッチフレーズであったのだ。
この3E政策の見地から、原子力発電の継続と促進を主張することが如何に根本的に誤っていたかということにまだ気づかないのは、原子力関連産業のスポークスマンないしセールスマンと化した官僚や政治家くらいのものであろう。原子力が、二酸化炭素などとは比較にならぬ環境汚染を引き起こすダーティ・エネルギーであったこと、それにもかかわわらず、これをクリーンエネルギーとして売り込んできた推進派の責任は重大である。
今後の日本のエネルギー政策はどうすべきか、とくに脱原発を明確に打ち出し、その前提に立ってエネルギー政策と環境政策を構築していかなければなるまい。この点に関する限り、自民党民主党も、マスコミに出てくる学者・評論家も、言っていることは、当面の対応策の話ばかりで長期的展望を欠いている。エネルギー・環境問題は、超党派で取り組むべき課題である。このブログでも紹介した、吉井英勝衆議院議員のような専門的な見識をもった人に、今後の日本のエネルギー・環境政策について、マスコミはもっと取材して意見を聞くべきだろう。幸い、同氏の近著

原発抜き・地域再生の温暖化対策へ

原発抜き・地域再生の温暖化対策へ

が出版されているので、私も早速注文したが、現在、増刷中であるとのこと。書籍が届き次第、その内容を紹介しつつコメントしたいと思う。